相続放棄と不動産の管理責任
「相続放棄さえすれば、実家の古い家や土地の手入れから解放される」と考えている方は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。特定の条件下では、相続を放棄した後も不動産に対する責任が継続する場合があります。
特に2023年(令和5年)の民法改正により、これまでの「管理義務」の概念が整理され、新たに「保存義務」という枠組みが示されました。
株式会社 翔栄
解説していきます
東京で45年以上買取事業を中心とした不動産業を経営。一般的には不動産会社に買取を断られるような物件においても高額買取を実施。各分野のプロと提携しているため、買取だけではなく、相続時の権利問題など物件の"困った"を包括的にサポートしています。
2023年民法改正で変わった
「管理義務」
2023年4月に施行された改正民法により、第940条が定める「相続放棄後の義務」の内容が大きく見直されました。これまでの曖昧だった管理義務が「保存義務」という言葉へ変更され、責任を負うべき人の範囲が明確化されました。まずは改正のポイントを整理していきます。
「管理継続義務」から
「保存義務」への変更点
旧法では「自己の財産におけると同一の注意をもって管理を継続しなければならない」とされており、義務の範囲が非常に広く、何をどこまで行えばよいのか不明確な点が問題でした。新法(改正後)ではこれが「保存(現状を維持する)」に限定され、責任の程度がやや緩和・明確化されました。
具体的には、リフォームや積極的な価値向上を行う必要はなくなり、あくまで「現在の状態を維持し、放置によって他人に迷惑をかけない状態を保つ」責任を負うという意味です。壊れかけた塀を支える、伸びすぎた枝を切るなどの、最低限の安全維持が求められます。
責任が発生する鍵は「占有」の有無
改正民法第239条の2の規定により、放棄後も保存義務を負うのは「相続放棄の時に相続財産を占有(事実上支配)していた人」に限定されました。これにより、相続放棄した人全員が一律に責任を負うという不合理が解消されました。
ここでいう「占有」とは、単に名簿に名前があることではなく、現に対象の不動産に住んでいたり、荷物を置いたり、日常的に施錠管理を行って建物を支配下に置いている状態を指します。放棄の瞬間にその土地・建物を直接的にコントロールできる立場にあったかどうかが、運命の分かれ道となります。
ケース別!保存義務の有無を判定
実家に住んでいる、
あるいは鍵を持っている場合
被相続人と同居していた場合や、空き家である実家の鍵を預かり、定期的に出入りして管理していた場合は、占有者とみなされる可能性が極めて高いです。
鍵を所有し、自分の意思でいつでも出入り・管理ができる立場にある以上、放棄したからといって即座に「あとは野となれ山となれ」と放置することは許されません。次の管理者に引き継ぐまでの間は、建物が倒壊して通行人に怪我をさせたりしないよう、保存義務を負っています。
遠方にあり、
一度も足を踏み入れていない場合
遠方に住んでいて長年実家との交流がなく、物件の状況も知らず鍵も持っていないようなケースでは、非占有者として保存義務を負わない可能性が高くなります。
物理的な距離があり、一度も足を踏み入れていない土地であれば、改正法によって責任を免れる余地が大幅に広がりました。自分が占有者に該当するか不安な場合は、過去の関与度合いを整理し、専門家へ相談することをお勧めします。
土地の管理責任は
「いつまで」続く?
保存義務が発生してしまった場合、その責任は永遠に続くわけではありません。法的には「次の管理者が見つかるまで」とされていますが、具体的には以下の2つのステップのいずれかが必要となります。
1.次の相続人が管理を
始められるまで
自分が相続放棄をすると、相続権は次順位の人(子どもから親へ、親から兄弟姉妹やその甥・姪へ)に移ります。その次順位の相続人が相続を承認し、実際に土地の管理を開始できる状態になれば、自分の保存義務は終了します。
注意すべきは、放棄した事実を次順位の人に通知せず、管理をバトンタッチできていない場合です。連絡を怠ると、いつまでも責任が付きまとうリスクがあるため、放棄後の速やかな通知は必須作業となります。
2.相続財産清算人が決まるまで
(相続人が誰もいない場合)
親族全員が相続放棄をして引き継ぐ相続人がいなくなった場合、あるいは次順位の人が現れない場合は、家庭裁判所に「相続財産清算人」を選任してもらう必要があります。これは裁判所が選んだ専門家(弁護士など)が亡くなった人の財産を管理・処分する制度です。
この清算人に財産を引き渡して初めて、自分の保存義務は完全に消滅します。それまでは、たとえ放棄者であっても現状維持の責任が残る点に留意しましょう。
清算人選任にかかる費用(予納金)の相場と負担者
相続財産清算人の選任申し立てには、裁判所へ納める「予納金」が必要となります。この相場は数十万円から100万円程度と非常に高額です。清算人の報酬や管理経費に充てられるものですが、管理から逃れたいと考える「申立人」が一旦立て替える必要があります。土地の価値が低く、売却しても予納金が回収できない場合、この費用はそのまま申立人の大きな持ち出し(赤字)となってしまいます。
相続放棄後に管理を怠った際の3つの重大リスク
近隣住民への損害賠償
保存義務があるにもかかわらず放置し、建物の塀が崩れて通行人が怪我をしたり、立ち枯れた庭木が倒れて隣家を損壊させたりした場合、「工作物責任」を問われます。
これは所有者や占有者が、過失(不注意)がなくても損害を賠償しなければならない「無過失責任」を負う恐ろしい制度です。相続放棄を済ませていても、法律上の占有者としての責任は消えないため、莫大な賠償金を背負うリスクを無視することはできません。
行政指導と過料
(特定空き家への指定)
空き家対策特別措置法により、管理不全の家屋は「特定空き家」に指定される可能性があります。
指定されると、固定資産税の優遇措置が解除され、税額が最大6倍に跳ね上がります。さらに行政の助言や指導、勧告を無視し続けると、50万円以下の過料を科されるという厳しいペナルティが待っています。
一度行政のリストに載ると、監視の目が厳しくなり、放置は不可能となります。
特定空家等に対する措置│国土交通省(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001591144.pdf)
管理費用の増大
管理を怠ると、不法投棄のターゲットになったり、害虫・害獣の住処になったりします。山積したゴミの処分費用や、家屋を食い荒らすシロアリの駆除、巨大化した蜂の巣の撤去費用などは、放置すればするほど膨らんでいきます。
最終的に管理を終わらせようとしたとき、初期に対処していれば数万円で済んだコストが、数百万円の「後始末費用」として自分に跳ね返ってくることになるのです。
相続放棄せずに土地を手放す「3つの出口戦略」
相続土地国庫帰属制度で
国に引き取ってもらう
2023年にスタートしたこの制度は、相続した不要な土地を一定の条件の下で国に引き渡せる画期的なものです。ただし、ハードルは非常に高く、建物がない更地であること、境界が確定していること、土壌汚染がないことなどが求められます。
また、審査手数料に加えて10年分の標準的な管理費に相当する「負担金(通常20万円〜)」を納める必要があります。放棄を検討する前に、この条件に合致するか精査する価値はあるのではないでしょうか。
自治体や隣地所有者への寄付・譲渡
自治体への寄付は、公園や道路の拡幅などの公用目的がない限り、原則として断られるのが現実です。
一方で、隣地の所有者への譲渡は有効な解決策になり得ます。隣地の方にとって「自分の土地を広げられる」「庭を拡張できる」というメリットがあれば、たとえ無償であっても喜んで引き受けてくれるケースがあります。
登記費用をこちらが負担するなどの条件を提示し、円満に手放す道を探るのも一つの手として考えられるでしょう。
専門業者への売却(買取)
一般の不動産仲介では買い手がつかないような「管理不全の土地」や「再建築不可物件」のことを「負動産」呼ぶことがあります。この「負動産」であっても、独自の再生ノウハウを持つ専門業者であれば買い取ることが可能です。相続放棄の手間や高額な予納金の負担、あるいは将来の損害賠償リスクを考えれば、たとえ安価であっても「買取」で即座に名義を移し、法的責任を切り離してしまうのが最も合理的で安全な選択となることが多いです。
放置は最大のリスク!早めの現状把握が自分を救う
相続放棄をすればすべてが終わるという考えは、現代の法律下では通用しません。特に「占有」している場合には、放棄後も重い保存義務が付きまといます。大切なのは、まず自分の土地が「今、どのような法的状態にあるのか」「放置することでどれほどのリスクが生じているのか」を客観的に把握することです。手遅れになる前に専門家のアドバイスを受け、相続放棄以外の選択肢も含めた最善の出口戦略を検討しましょう。
相続した土地の管理を諦める前に
ご相談を。
訳あり物件のプロが「負の連鎖」を断ち切ります
共有持分や再建築不可、借地権、あるいは管理が困難な老朽物件など、いわゆる「訳あり物件」は、権利関係の整理や近隣トラブルの解決に多大な労力を要するため、一般の不動産会社では敬遠されがちです。
翔栄は、不動産問題に精通した弁護士や税理士といった各分野のプロと強固なネットワークを形成しており、どのような困難な案件であっても適切な解決の糸口を見出します。
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